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大阪高等裁判所 平成9年(行コ)9号 判決

主文

一1  原判決中、原判決添付公金支出目録三記載の支出金に関する部分を取り消す。

2  右部分を京都地方裁判所に差し戻す。

二  控訴人らのその余の控訴を棄却する。

三  前項の訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは京都市に対し、各自、

(一) 被控訴人今川節子において金一七〇万円及びこれに対する平成二年五月一二日から、

(二) 被控訴人今川〓彦、同今川和彦において各金八五万円及びこれに対する右同日から、

(三) 被控訴人森脇史郎において金三四〇万円及びこれに対する平成二年五月一一日から、

支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

一  前提事実

1  当事者

(一) 控訴人らは京都市の住民である。

(二)(1) 今川正彦は、昭和六三年五月ないし一二月当時、京都市長であった。

(2) 同人は平成八年一二月七日死亡し、相続人である被控訴人今川節子、同〓彦、同和彦が訴訟承継した。

(三) 被控訴人森脇は、右当時、同市民生局同和対策室長であった。

2  公金支出

(一) 京都市は、原判決添付公金支出目録記載の各支出決定(以下、本件一ないし三決定という)及び各支出命令(以下、本件一ないし三命令という)に基づき、被控訴人森脇に対し、同目録記載の金員(合計三四〇万円)を支出した(以下、本件一ないし三支出金という)。

(二) 本件各支出決定(京都市民生局長が同局同和対策室長に対し後記報償費を支出する旨の決定)は同局長中谷佑一が、本件各支出命令は同局社会部庶務課長折坂義雄が、いずれも同市局長等専決規程に基づく専決権限により行った(原審被控訴人森脇、弁論の全趣旨)。

(三) 本件各支出決定及び命令によると、本件各支出金は、種別・同和対策費、科目・民生費(款)、民生総務費(項)、民生事業費(目)、報償費(節)、支出理由・同和対策事業を実施する上で特に必要な経費として、本件一支出金は昭和六三年四月ないし六月分、同二支出金は同年七月ないし一一月分、同三支出金は同年一二月ないし平成元年三月分として支出された。

3  京都新聞は、平成元年一二月一三日、本件各支出を報道した。

4  監査請求及び監査決定

(一) 京都市監査委員は、平成二年三月三〇日、控訴人らの同月七日付監査請求(以下、本件監査請求という)を、地方自治法(以下、法という)二四二条二項に違反するとして却下した。

(二) 本件監査請求の趣旨は、今川正彦に対し、同条一項に基づき、本件各支出金の返還を求めるものであった。

二  控訴人らの本訴請求

控訴人らは、法二四二条の二第一項四号に基づき、今川正彦は同号所定の当該職員、被控訴人森脇は同号所定の相手方に当たるとして、被控訴人らに対し、本件各支出金相当額の損害賠償金の支払いを求めた。

第三  争点

一  本件監査請求は適法か。

二  被控訴人森脇に対し監査請求を経由したといえるか。

三  本件各支出は違法か。

四  被控訴人らは、本件各支出につき損害賠償責任を負うか。

第四  主張

一  争点一について

1  控訴人ら

本件監査請求が監査請求期間の経過後なされたことにつき正当な理由がある(法二四二条二項但書)。

(一) 本件各支出の秘密性

(1) 本件各支出金は名目は報償費とされるが、実質は特別経費に当てられている。

したがって、本件各支出決定書及び命令書は虚偽文書である。

(2) 本件各支出は住民に公表されず、また、住民は本件各支出決定書及び命令書を閲覧することはできない。

(3) したがって、本件各支出は秘密裡になされたというべきである。

(二) 相当期間内の監査請求

(1) 控訴人ら京都市住民は、京都新聞の報道により初めて、本件各支出を知った。

(2) 控訴人らは、本件各支出に関する事実調査、関連法規及び先例調査を行い、平成二年二月一七日、本件監査請求をしたが、受理されなかった。

そこで、控訴人らは、同年三月七日、配達証明付書留郵便で本件監査請求書を提出した。

右不受理は違法であるから、本件監査請求は同日なされたというべきである。

(3) したがって、本件監査請求は、控訴人らが本件各支出を知った後、相当期間内になされたというべきであり、前記正当理由がある。

2  被控訴人ら

控訴人ら主張の正当理由はない。

(一) 本件各支出の秘密性

(1) 本件各支出については、昭和六三年以前から、議会の議決を経た上で予算措置がされている。

(2) 本件各支出金は、地元関係者の同和行政に対する協力への謝礼という意味で報償費として予算化したものであり、同和事業推進のための必要経費である。

(3) 本件各支出金の具体的使用に当たっては、使途を厳選し、且つ、金銭出納帳を作成し、領収書と共に保管している。

(4) 控訴人らの主張(2)は本件各支出の秘密性の根拠とはならない。

(5) したがって、本件各支出は何ら秘密裡になされたものではない。

(二) 相当期間内の監査請求

控訴人らの主張は争う。

二  争点二について

被控訴人森脇

同被控訴人に対する本訴請求は監査請求を経ていない。

三  争点三、四について

次のとおり訂正する他、原判決第三(争点に関する当事者の主張)三、四記載のとおりである。

1  原判決一一頁三行目の「以下の(一)ないし(三)のとおり、」を削除、四行目の「ものであって」を「から」と、五行目の「違反する違法なもの」を「違反し違法」と、八行目の「支出決定書には、」を「支出決定書の」と、同行の「として」を「は」と、一〇行目の「の記載がある」を「されている」と、末行の「せず」から「対し」までを「しないから、」と改め、一二頁一行目の「全く」を、一〇行目、一三頁六行目及び一四頁一行目の「に基づく公」を削除する。

2  一四頁八行目から一五頁一行目までを次のとおり改める。

「本件各支出は、京都市議会において議決された昭和六三年度京都市一般会計予算に従い、本件各支出決定を債務負担行為としてなされたものであるから、法二三二条の二に反しない。」

3  一五頁三行目冒頭の「同和」を「京都市における同和」と改め、三行目の「京都市」を、四行目の「京都市の」を削除、五行目の「示唆を受け」を「示唆」と改め、七行目の「冠婚葬祭等に対する」を削除、七、八行目の「に充てるなどの」を「の諸」と改め、末行の「京都市民生局」を削除、一六頁一行目の「折衝が」を「折衝を円滑に行うための前記諸経費の支出が」と改め、二行目の「京都市民生局」を削除、三行目の「包括的に」を「昭和六三年度京都市一般会計予算から、本件支出決定に基づき、包括的に」と改める。

4  一七頁一行目から四行目までを次のとおり改める。

「前記のとおり、本件各支出は予算に基づき種別、支出理由を明確にしてなされているから使途は明確であり、個別の支出も同和行政を円滑に推進するために必要な経費(飲食費、慶弔費等)に当てられるから支出目的に合致する。飲食費、慶弔費等の支払の中に問題があったとしても、本件各支出それ自体は違法ではない。」

5  二〇頁一〇行目から二一頁三行目までを次のとおり改める。

「被控訴人森脇は、本件各支出決定(地方公務員法三二条の上司の職務上の命令である)に従い、本件各支出金を受領、管理したのであり、何ら違法な職務行為を行っていない。したがって、京都市に対し損害賠償責任を負わない。」

第五  証拠関係は省略する。

第六  判断

一  本件監査請求の適法性(争点一)

1  本件監査請求の対象

本件監査請求の対象である本件各支出決定及び命令に基づく本件各支出行為は財務会計行為としてそれぞれ別個独立の行為である。

2  監査請求期間(法二四二条二項本文)の遵守

(一) 1記載の理由により、本件監査請求期間の起算日は本件各支出行為につき各別に決められるべきである。

(二)(1) 本件監査請求は京都市の同市民生局同和対策室長たる被控訴人森脇に対する本件各支出行為を対象とするが、本件各支出金は第三者に対する支払が予定されたもので、本件各支出行為が違法、不当であるかは、一に本件各支出金の具体的使途、すなわち、現実にどのような用途に供せられたかに係っているのであり、第三者への支払によって外部の認識が可能となるのであるから、このような場合、監査請求期間の起算日は、本件各支出行為がなされた日ではなく、本件各支出金をもって第三者に対する支払を終了した日を基準とするのが相当である。

(2) 本件一決定及び命令に係る支出金(昭和六三年四月ないし七月分)をもって第三者に対する支払を終了した日は同年七月三〇日である(乙三号証の六一)。

(3) 本件二決定及び命令に係る支出金(昭和六三年八月ないし一一月分)をもって第三者に対する支払を終了した日は同年一一月三〇日である(乙二号証、三号証の一二三)。

(4) 本件三決定及び命令に係る支出金(昭和六三年一二月ないし平成元年三月分)をもって第三者に対する支払を終了した日は平成元年三月三一日である(乙二号証)。

(三) そうすると、本件監査請求が平成二年二月一七日になされたと解しても、本件一、二決定及び命令に係る本件一、二支出に対する本件監査請求は監査請求期間の起算基準日から一年の経過後になされたことになり、本件監査請求が平成二年三月七日になされたと解しても、本件(三)決定及び命令に係る本件(三)支出に対する本件監査請求は監査請求期間内になされていることになる。

3  正当理由(法二四二条二項但書)の有無

本件一、二決定及び命令に係る本件一、二支出に対する本件監査請求につき、法二四二条二項但書所定の正当理由があるかについて判断する。

(一) 右正当理由を肯認するためには、先ず、本件一、二決定及び命令に係る本件一、二支出が秘密裡になされたことが必要である(最高裁判所昭和六三年四月二二日第二小法廷判決参照)。

(二) そして、一般に地方公共団体の行う財務会計行為はその存否、内容及び支出理由を公表しないのが通常であることに照らすと、右にいう秘密裡とは特に財務会計行為の存在及びその違法、不当性を秘匿する場合を指し、住民が右財務会計行為の存在を法律上も事実上も知り得なかった全ての場合を指すものではないと解される。

(三)(1) 本件一、二決定及び命令に基づく本件一、二支出は、京都市議会の議決を経た上、昭和六三年度京都市一般会計予算から種別、科目、支出理由を明らかにしてなされている(甲一ないし四号証、弁論の全趣旨)。

控訴人らは本件一、二決定書及び命令書は虚偽文書であると主張するが、前記目的のため特別経費を報償費として支出することの当否はさておき、右各文書が虚偽文書であるということはできない。

(2) 本件各支出金の使途は京都市会計規則(甲二〇)に準じて、金銭出納帳及び領収書により概ね明らかにされている。

因みに、本件一支出金は合計一〇八万三九一七円が使用され、領収書のないものが一二万四七八〇円(一一・五一パーセント)、本件二支出金は合計九四万四三〇〇円が使用され、領収書のないものが二三万四三八〇円(二四・八二パーセント)である(乙二号証、三号証の一ないし一二三、原審被控訴人森脇)。

(3) そうすると、本件一、二決定及び命令に基づく本件一、二支出が秘密裡になされたということはできない。

したがって、本件一、二支出に対する本件監査請求は、前記正当理由を欠き、監査請求期間を徒過した不適法な請求である。

二  被控訴人森脇に対し監査請求を経由したといえるか(争点二)。

本件監査請求の趣旨は京都市長たる今川正彦に対し本件各支出金の返還を求めるものであり、被控訴人森脇に対する本訴請求は本件各支出行為の相手方たる同被控訴人に対し本件各支出金相当額の損害賠償金の支払を求めるものであり、両者の対象とする財務会計行為の基本的事実関係は同一である。

したがって、被控訴人森脇に対する本訴請求(但し、本件三支出金に対する部分)は監査前置の要件を充足する。

三  結論

以上によると、原判決の内控訴人らの本件三支出金に関する請求を却下した部分は失当であるが、その余の部分は正当である。

よって、主文のとおり判決する。

(編注)第1審判決及び第2審判決は縦書きであるが、編集の都合上横書きにした。

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